声優の永井一郎さん(享年82)の通夜が2日、東京・青山葬儀所で営まれ、国民的アニメ『サザエさん』のサザエ役の声優・加藤みどりが参列しサザエの父・波平役だった永井さんを悼んだ。
「なんかまだ実感してこないんです」と、語りだした加藤。先月の23日にアフレコをしたのが最後だったそうで、「いつもの木曜日に録音して、普通に始まって、普通に帰って、それから4日後にメディアの方がこうですと言っても、まったく実感が沸きません。いつもと同じで、わけがわからない感じですね」と、心情を。
「私は(『サザエさん』を)スターティングメンバーでやってまいりましたから、毎週木曜日に45年間やってきました。やっぱり悲しいですよね…。45年というのは今思えば大切な時間です」と、加藤は声を震わせつつ、「毎日、毎日、今思えば45年というのは短かったんだなと思います。彼は45年間というものはいつもキチッとした身なりでラフな格好で見えられたことは1度もなかったんです。素晴らしい色合いのスーツを着てきて、具合が悪かったこともあったと思うんですけれども、愚痴を言ったことも、泣き言をいったことも、不満を言ったこともない人だったんです。だから……、ごめんなさい」と、溢れ出る涙を拭った。
続けて「アニメというのは13回で3ヶ月でワンクールと言われています。ですから、4月に始まって、7月に終わるものが、今年で45年と言われて長かったんだなという気はします。でも、こんな形で45年目が来るなんて。どうしましょう…、言葉になりませんね」と、うつむく。
永井さんについて、思い浮かぶことを尋ねると、「いつも同じだったし、特別なものがないですが、いつも重たそうな荷物を持ってきて、『ああくたびれた』と言ってました」と、回想する加藤。
『サザエさん』での永井さんの役割として「何人かが(『サザエさん』の出演声優が)替わっています。私は年下でレギュラーになりましたから、好き勝手なことをしておりましたし、どちらかというと楽しんでやっておりました。煩わしいこととか、面倒くさいこととか、周りの人が全部やってくれました。とくに波平さんという役は一見何でもないような役でいて、全体のまとめ役であり、引っ張り役であって、彼が45年間培ってくれたものだと思うんです。そういうことも含めて、当たり前のようになっていたので、地面がなくなったような気がしますね。だから、出番も多いし、難しい部分は彼が全部背負っていたことがありますので。もし、本当に調子が悪い時があったら大変だったろうなと思いますね」と、語った。
現場では、加藤には体調不良のときでも、それを見せることはなかったという永井さん。「彼は私にはあまり言わないんです。若いお嬢さんには言ってワカメちゃんには『あのね』と言ってましたけど、私には『気のせいだよ』と言ってました」という。
しかし、ケアはしっかりしていたのを加藤は見ていたそうで、「これは誰にでもあることかもしれません。でも、彼はとても健康に気を使っている人で、どんなときでも、キチッとケアをしていたので、必ず喉が調子が悪いなといえば、耳鼻科に行っていたし、具合が悪いなといえば内科に行くし、どんな場合でも、キチンとお医者さんにかかってケアをしていて、あれがどう、これがどうあそこが痛いとかを自分で見ていました」。
さらに、声優としてテクニカルな部分でも永井さんは、その腕前をしっかりと見せていたという。「ラステス・本番という非常に厳しい中で録音しますので、いろんな世間話をする暇はないんです。声優さんとしては、非常に厳しいラインの録音です。普通ですと、テストを重ねて、そして本番に行きましょうとなりますけど、『サザエさん』は説明があって、ラステスがあってはい本番行くよと言われて、みんな必死なんです。そういうなかで、彼は出番が多くて、セリフも多くて、それでも彼だからできたんだと思います。全員厳しい中で録音しています。ずるずるやってると段々、慣れ合いになってきて、ちっとも面白くないんだよねというような演出の目的があったんだと思います」と話していた。
永井さんの最後の仕事となった広島でのナレーションを問われると、加藤は、「こんなことになると思わないから彼が広島に行ってお仕事をしたんだと思います。むしろ、私もシフトして、奥様がどんなにか驚かれて、どんなにかお困りになって、寂しかったろうか、つらかったろうかということかと思います」と、親族の気持ちを慮っていた。
最後に報道陣から「何かやりとりはされましたか?」と問われ、「本当に、スッと逝っちゃった。別に最後の言葉とか何もないんですよ。そんなことってあるんですね」と、涙を浮かべていた。
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