東京・ビッグサイト内で開催された『東京国際アニメフェア2013』ステージで23日、『キングゲイナー祭 エクソダス、するかい?』イベントが開かれ、富野由悠季監督、シリーズ構成の大河内一楼氏、アニメーションディレクター・吉田健一氏、メカデザイン・安田朗氏が登場し司会は藤津亮太が務めた。
オーバーマンという人型メカを駆りド派手なメカアクションがあったり、オープニングでのなぜか目が離せないゴーゴーダンスなど、当時数々の話題となったアニメ『オーバーマン キングゲイナー』。今年10周年を迎えるにあたり、最終回放送日と同じ3月22日にBlu-rayメモリアルBOXが発売されることを記念し当時かかわったスタッフが集結してのトークショーが開催された。
まずはVTRメッセージでOP曲『キングゲイナー・オーバー!』を歌った歌手・福山芳樹から「こんな曲聴いたことなかった。放送終了から10年。キングゲイナーはすごいと思いいます。存分に楽しんでいってください」と、メッセージが寄せられることに。
富野監督は、ほかの3人があいさつした後に、「こういう人たちに、わけの分からない間に監督をさせられた富野です」と、あいかわらずの“富野節”で観客を沸かせつつ、本作について、「作らされてしまったなという感覚が自分の中にあって、どういう形でキング・ゲイナーが立ち上げられたか思い出せないくらいに彼らが全部現場を仕切ってくれたという印象が強い」と、率直な感想を寄せる。
オーバーマン固有の特殊スキルである『オーバースキル』も実は大河内氏のアイデアだったそうで、「富野さんに内緒で入れました。不思議なロボットだと聞いていたので。しれっと入れてみたんですけど、恐る恐る入れてみたら翌週の脚本でいいよといわれて」と、秘話を。
これに、富野監督は「10周年と聞いて振り返った時に、オーバースキルのことを上手に演出できなかったというのが分かってきて、折角こういうキャラクターを作ったのにもっとアニメーション的に楽しく大きく画面を作るのができなかったというので、ひどく反省しているというのがここ2、3ヶ月なんです。広がるものにできなかったのがちょっと悔しい。みなさん方が出してきたいいものを生かしきれなかった」と、後悔もあるという。
オープニングのゴーゴーダンスにも富野監督は言及。「オープニングのコンテを切るまではキングゲイナーという番組がああいうふうになると思わなかった。もっとシリアスになるはずだったんです」と言い出す。
続けて、「キングゲイナーがなんでこんな作品になっちゃったかっていうと、半分以上本当なんですけど(音楽を担当した)田中公平がいけなかったという言い方になる。この歌詞でああいう曲想が出てくるか?と思った。予定がなかった曲想を田中公平というちょっと素っ頓狂なおじさんが、やってくれたときに、ムカッとするわけですよ。我々が考えているような1本線のアイデアではないんだと分かって、そういう才能に対して、こちらがそのまま返すのはものすごく腹が立つわけ。そこで田中公平を黙らせる!って思った時に、コンテがすぐ描けなくて、考えて行ったら、オーバーマンだからアイススケートを入れようと考えていって」と、田中公平氏と富野監督自身の戦いの末のためできあがったものだそうだ。
ほかにも大河内氏が富野監督と一緒に作品を作るにあたって、「ぶん殴られてもいいから全力でぶつかろうと思ったんです。それでスタジオで富野さんの横にちょっと嫌な顔をされながら机を置いたんです。一番プレッシャーが厳しいところでやりたかった。1年だけ頑張ろうと思って。いっぱい怒られましたけどいい経験でしたね」と、しみじみ。
一番怒られたことで印象的なものを大河内氏は、「脚本打ち合わせのときに、僕が脚本を出して、普通ならここのセリフを変えようとかいうんですけど、富野さんが来た時に、ため息ついて『お前、本当にヘタだね』って、それだけ言って帰っちゃったんです。そのときは泣きそうになりました。中盤ぐらいで自分イケてるんじゃね?と気がしていたような時期だったので」と話すと、富野監督は、「それは絶対に嘘だと思いますよ。60になっている年寄りが、若いスタッフにそんな失礼な態度を取れるわけはない」と、苦笑いで頭を下げていた。
なお、本作の“エクソダス”に引きずられ安田氏は「エクソダスという題目に引かれてしまって、18年務めた会社を辞めました」と言い出すと、富野監督は、「きょう始めに謝った理由でもあるんです。キングゲイナーの大事なテーマを僕が自覚してなかった。30代とかの人生がぶれる時期に荷重がかかるというのに、これについて想像できなかったのが申し訳ないし、リアルに関係してくるというのが分かったし、これ以後、死ぬまで気をつけますとしか言えないし死ぬまで応援して下さい」と、考えの指針も見つけていたようだった。
最後に富野監督は、「流行り廃りはありますが、10年たってオーバーマンなりに持っているよさを再確認させて頂いています。これもアニメが生み出した財産だと思いますので、次の世代に受け渡していくためにもこういう作品があったんだよというのは広めて行きたい。そういうものにかかわらせていただいたのに感謝しています」と、きっちり締めつつ、ゴーゴーダンスを見せながらお茶目にその場を後にした。
■キングゲイナーSTORY
破壊された環境の中、人類が新たな文明を構築している時代。人類が生活するには厳しい土地にドームポリスを建設し暮らしていたが、地球の環境が改善され、元いた大地に戻ろうとドームを脱出(エクソダス)が各地で行われるようになった。しかしエクソダスは犯罪の一つとして取り締まられるように、その結果、大規模なエクソダスを成功させた者は皆無だった。そんな時代を舞台に主人公たちの大規模なエクソダスが始まることとなり…。