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山本學 森光子さんへ弔辞…「ああこの人は本当に人間が好きなんだ」

 女優・森光子さん(享年92)の本葬が7日、東京・青山葬儀所でしめやかに営まれ、生前親交のあった俳優・山本學(75)が弔辞を読み上げた。

 ■以下、全文
 「森さん……、気安く呼ばせて下さい。あなたはもう、この世には、この世にはいらっしゃらないんですね。そのことがどうしても信じられません。そう申し上げると、『そうよ、私はもういないのよ。でもね、きょうは、みなさんのために1日だけ帰ってきたのよ』と、その辺から、顔を出されるような気がいたします。そういう、おちゃめで人を驚かすことが大好きな方でしたね。ダジャレの好きな、楽しい方でした」

 「大女優であり、大先輩なのに、上から目線でなく、対等に話をして下さいました。そのことは、私にとって、大きな教えでした。あれは、『放浪記』の帝劇の稽古場でした。台本を読んでいるあなたのそばに、どっこいしょ、と腰を下ろして。『山本さん、どっこいしょはいけませんよ。年寄りじゃないんですから』、じゃあ何と言えばいいんですか?『イエイ、っておっしゃい』。私は、返す言葉もなく、イエイって言ってました。そういう間髪を入れぬ、ひらめきがあなたにはおありなんですね。森さんてどういう方?と、いろんな人から聞かれた時に、私はこの話をよくさせていただきました」

 「『放浪記』の九州公演、四国公演、岡山公演のとき、3日も続いて休みがあったぜいたくな旅がありましたね。仲間のみんなは、温泉に行く話で盛り上がっていました。そのとき、森さんも一緒に行きませんか?と、お誘いしたら、『私は温泉なんて、好きじゃありません。人と話をしてる方が好きなんです』とおっしゃるので、じゃあお休みはどうされるんですか?と申し上げたら『そうね、六本木のうちに帰って、ゆっくりお風呂に入って、テレビを見て、飽きたら、マンションの窓から下を通る人を眺めるの。上から下を眺めていると1日でも飽きないのよ。そして次の日はお芝居を見て、帰ってきます』。また私は返す言葉もなく、ああこの人は本当に人間が好きなんだな、体の芯から女優さんなんだ、私なんて足元にも及ばない強い方なんだと思いました」

 「先日、森さんをしのぶテレビの番組を見ていたら、森さんがこう申されていました。『役者は寂しくなくちゃいけないんです。日常が幸せいっぱいじゃうまくいかないんです』。心に残る言葉でした。いつも明るく、楽しくされていながら、やっぱり、お寂しかったんだなぁと知りました。『放浪記』の私のセリフが出てきます。『芙美子さん、苦労してきた者は、自分自身に対して、律義できちょうめんなもんです。ただ、他人にはそれが分からないだけです』。それを聞いて、あなたは、ぽろりと涙を流されました」

 「森さんは、天国に参られても、きっと芝居をやり続けられると思います。でも、いっときでいいですから、10代の少女の頃に帰って、お芝居のことはすっかり忘れて、お父さんお母さん妹さんと、お嫌いな温泉につかって、ゆっくりご家族の交流をかみしめて、その幸福の中で、過ごされることを、どうか、そういう時間を持たれることを望みます。そして天国の温泉の窓から下界を見下ろし、役者にかじりついて右往左往している私たちを眺めて下さい」

 「実にたくさんのことを、言葉ではなく、身をもって教えていただいてありがとうございました。森さんを送る言葉は、ただ……、ありがとうございます、という言葉です。本当に、ありがとうございました。ありがとう」

 弔辞を読み終えた山本は「どっこいしょ」の代わりに「イエイ」とつぶやき着席。森さんとの日々を懐かしんでいるようだった。

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