
昨年まで劇団『東京セレソンデラックス』を率いていた俳優で演出家・宅間孝行(43)が今年から新たに『TAKUMA FESTIVAL JAPAN』、略して『タクフェス』を結成し舞台『晩餐』を10月3日から12月まで全国9ヶ所で上演する。その記念すべき『タクフェス』第1弾でキーマンとして出演する女優・市川由衣(27)へ、稽古にちょうど熱が入る9月中旬、宅間とともに話を聞いた。
本作は吉祥寺にあるシェアハウス『イノヘッド』が舞台。そこへ60年後から若くして亡くなってしまった母親(田畑智子)とひと目会うことを求めた中村梅雀演じる男性が妻の柴田理恵、市川演じる天才科学者の3人で未来からやってくる。タイムスリップもののお約束で正体が明かせない3人は、個性的なイノヘッドの住人から、ときには宇宙人、ときには旅芸人など誤解されドタバタを繰り広げながら進んでいくのだが、最後は宅間マジックで感動的なラストへと突き進んでいくハートフルコメディに仕上がっている。
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宅間が真横にいるという状況だったため少々恐縮気味の市川だが、元々は大の『東京セレソンデラックス』ファン。それが高じて今回声がかかったそうで、「念願でしたね!何年も前からセレソンの作品大好きで、宅間さんと知り合いじゃなかったんですけど、観に行ってました。あるドラマで共演させて頂いた時に、『セレソンのファンなんです』って言って、そのときに、写真とか撮ってもらって(笑)」と、熱烈なファンだったという。
セレソンの魅力は、「どの役者さんも(演じる)キャラクターも素敵に見えることです。誰一人微妙だったという人がいないくらい輝いているんです。私が観に行ったとき、今までにないぐらい泣いて、こんなにお芝居で心を動かして感動できるんだというのを、初めて感じて、そういうお芝居をやっていきたいと思いましたね。ただ、恐れ多くてセレソンに出たいとか言えなくて(苦笑い)ぜひっておっしゃられて参加させていただきました」と、熱く語る。
憧れから宅間の元へ飛び込んだ市川だが「稽古をやってて思うのは、どの人物に対しても宅間さんの愛情があるから、どの役者さんも、演じるキャラクターも素敵に見えたんだと思いました。ただ、やってる方は大変だというのを日々感じています」と実感を語りつつ、「でも、お客さんは分からないじゃないですか。こんだけの稽古に耐えて……(苦笑い)。稽古は怖いかですか?怖いって言ったら怒られるじゃないですか!」と本音がポロリと漏れると、宅間から「何言葉を選んでんだよ(笑)」との声が飛ぶことも。

本作を作ろうと思ったきっかけを宅間に尋ねると、「とにかく梅雀さんに宇宙人をやらせたくてそっから始めたディテールなんです」という、子供が聞いても笑ってしまいそうな楽しげな発想からスタートしたそう。そのなかで、市川を天才科学者としてキャスティングした理由を、宅間は、「組み合わせになっていって、梅雀さんと柴田さんが夫婦というのと、田畑と僕が夫婦というのが構想にあって、そうしたら科学者みたいなのが出てきた方がいいだろうと思ったんです。そういうわけで、由衣に天才科学者をやらせたかったというわけではないんです。でも、科学者的要素のノリがゼロで、どう見ても天才じゃないだろうという人が天才の方がいいかなってと思って」と、市川を観て笑う。
それを受けて市川は、役を言い渡された時のことを、「台本には博士みたいに書いてあって、台本読んだら結構ハチャメチャな博士で、自分ではやったことのないような、キャラクターですし、すごく楽しい役でもあるし、キーポイントにもなる役だし、『うわぁ、頑張ろう!』と思いました」と気合が入ったとのだとか。
市川は2001年にドラマデビューし02年に初舞台、03年8月には『呪怨』でスクリーンデビューするなど、以降、女優としてキャリアを積んできたが、本作では「テンションがすごく高かったんです。舞台はそんなに経験がないんですけど、ドラマとか映画とかでやる役っておとなしめの役が多くて、ここまで弾けた人というのはやったことがなくて、自分の中でそういう役をやりたという願望があったので嬉しかったです」と、新たな挑戦に胸を弾ませる。
「実際宅間さんのところでは何が一番大変ですか?」と尋ねると、宅間が「俺ここに居ないほうがいい?(笑い)」とおどけるも、市川は「自分の甘さだったりとか、自分の本当にできてないところとか、まさにそこを指摘されるので、そこで気づくことも多いですね」と、真しな態度。

続けて市川は、「私はセレソンが大好きだったので、こういうの(大変な稽古)があって、みんなが良い芝居するんだっていうのを学ぶ日々で、自分のできなさを日々痛感していて……、結構……」と詰まると、宅間から「この流れは落ち込んでるって感じだけど」とツッコまれつつも、「元気です!(笑)言われて、あっと思うんですけど、いい物にしたいという気持ちがありますし、初めて、セレソンが解散してタクフェスになって、自分がセレソン・ファンとしての立場としてすごい期待するし、セレソンのころより良くなかったと言われたくないし、何を言われても絶対いい物になるという確信もあるんです。悩むなとは言われるんですけど、悩んで、もがいて前に進みたいなと思っているんです」と、前を向く。
大変な部分の具体例を挙げてもらうと、市川は「宅間さんはよく『セリフに引っ張られるな!』とおっしゃられるんです。でも、私たちは台本を渡されて、台本を読んで、そこだけのことで想像しちゃうんです。けれど、そこに描かれていない部分だったりとかで、この1時間前に何を話していたと思うかとか、どういうことがあって、今があるのかっていうのを、なんとなくじゃなくて、自分の中に落としこんで作っていかないと『そこでの感情は出せないよ』と言われて、それはごもっともだなと。なんとなくで自分はやっていたんだなとすごく反省しました」とのこと。
中村、柴田といった大物との共演をしていて学ぶことも多いそうで、「私の役は梅雀さんや柴田さんとずっと3人なんですよ。2人ともテンションが高いので、まずそこに負けないことが本当に自分の課題ですし、私がタイムマシンを発明して連れてきたので、上から言わなきゃいけないんですけど、引っ込んでしまったりとか。そういう戦いでもあります。そこは自分の中でキャラクターができてないので、どういう状況になっても自分の立場といのができないとなというのは思いますね。梅雀さんもすごいたくさんセリフがあるんですけど、いつも完璧なんですよ。やっぱりそういう姿を見ていると、すごいよなと思うんです」と、肌で先輩役者たちの凄さに刺激を受けている。

インタビュー時点で宅間は「今は時期的に(各キャストがキャラクターを)一番作っている時間で立ち上げているときが一番大変なんです」という時期であることを挙げつつ、「キャラクターを掴む人と掴まない人がいるんですけど、掴める人は物語の中でこういう立ち位置にいて、だからこうなんだということが分かるんです。お客さんも本当の人間の感情を見れば揺らぎますけど、嘘だと思った瞬間に絵空事になっちゃうので、この場面にいる人が本当にそう思っているというものにならないと」と、熱く語る。
そんな最中なだけに、市川は「素敵な作品になるように、今を乗り越えて、最高にハッピーな時間をみなさんに過ごせてもらうように努力します」と控えめにアピールすると、「努力では駄目なんです。プロは結果なんです。経過は関係ないんです」と宅間からピシャリと言われ、市川は「結果を出します!」と、笑顔を見せながら誓った。
市川が自身初めてのキャラクターに挑戦し舞台上で結果を残せるのかは、10月3日からの舞台『晩餐』本公演でご確認頂きたい。
■上演情報
○東京・池袋サンシャイン劇場:10月3~27日
○名古屋・名鉄ホール:10月31日~11月4日
○広島・アステールプラザ大ホール:11月6日
○福岡・キャナルシティ劇場:11月9~10日 ○札幌・道新ホール:11月14~17日
○富山・富山県教育文化会館:11月21日
○新潟・りゅーとぴあ・劇場:11月23日
○仙台・電力ホール:11月30日
○大阪・森ノ宮ピロティホール:12月2~8日
※各チケットは全席指定で7500円(税込)で販売





















