宮﨑あおい、忽那汐里、吹石一恵、安藤サクラという日本を代表する若手実力派女優が等身大の女性を自然体で演じたロードムービー『ペタル ダンス』。日々を生きる20代後半の女性を切り取ったかのようで、派手な演出などはないが、感情の流れが心の奥底まで伝わり男性女性問わず共感を呼んだ。
本作は『tokyo.sora』『好きだ、』などを手がけた石川寛監督オリジナル作品となっているが、Blu-ray&DVD化となり9月25日からリリースされるに当たり、本作へ込めた思いや、シーンへの解説、宮﨑らの起用したときのエピソードなどを語ってもらった。
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大学時代からの友だちジンコ(宮﨑)と素子(安藤)が6年間会うことのなかったクラスメートのミキ(吹石)が海に飛び込み一命を取りとめたということを聞き、たまたま出会った原木(忽那)とともにミキのもとへと向かうという物語だが、本作を通して描き出したかったこととは――。
「心の揺れみたいなものを描きたかったんです。心が揺れる中で、誰か大切な人がいるから、明るくなろうとする人、そういう人の話にしたいなと思っていました。そのことを伝えるためにはどう人たちのどういう関係で起きているのかを、ずっと考えていました」
心の揺れを描くためにジンコ、素子、ミキの輪の中に旅をともにする原木という人物を登場させることになった――。
「ずっと友達だった3人だけだと、何もできないのではないかと思ったんです。友達に会いに行くだけで、お互いのことをよく知っているからこそ、きちんとした言葉すら投げられないんじゃないかなと思ったんです。原木という人が入ることで、3人の友達関係を肯定できるような気がしたんです。何もできなかったかもしれない友達に会いに行く旅を、肯定できるんじゃないかって。それに、一歩前に進もうとする人がいてほしかった。それが原木という人だったんです。彼女が一歩を踏み出せると、一緒にいた3人も新しい一歩を踏み出をせたように感じてもらえるんじゃないか、と思いました」
本作では話の流れを示すものはキャストらに示したが、物語進行上必要なセリフ以外の部分の脚本を渡すことはなかったという。これにも石川監督の狙いがあった――。
「脚本は、準備稿と呼ばれるものはみんな読んでいるんです。でも、セリフとして覚えないでください、1回読んだら忘れてください、現場にも持ってこないでください、と言って渡しています。それで、撮影の直前に決定稿というのを書くんですけれど、それは出演者の人には渡していません。どうしても、脚本のセリフにとらわれて、まずセリフを話そうとするんじゃないかなと思うんです。そうなると、それぞれが決まっていることを言うことになる。でも、僕らは普段生活している中で、相手が何を言うか分かっていないわけじゃないですか。何か言われてそれに反応して次の言葉を選んでいる。どちらかというと、そういうことになってほしかった」
そうした脚本がないため“手紙”という形で女優らにシーンや役の感情を示した。とくにジンコと素子がミキと病院で再会するシーンは、劇中でも描かれない部分まで“手紙”にしたためたという。結果、ジンコと素子がミキに近づいていくというシーンにさまざまな感情が生まれることとなった――。
「悩みを抱えているのか、悲しみを抱えているのか、苦しみを抱えているのかでミキは病院に入院することになって、その場に立っている。そういう人に対して友達は悲しみを感じても、そのことを話さないと思うんですよね。そうじゃなくて普通に接しようとか、できれば明るく話してあげようと思うと思うんです。明るくあろうとする人たちの話を描きたいと思ったのは、あのシーンでも出ていたのではないでしょうか」
そんな人生の一瞬、一瞬を切り取り大切にしていることが伺えるが――。
「そういう瞬間をなるべく重ねることで、観ている人にそこに生きている人を感じてもらえるんじゃないかなと。目の前にちゃんと人が居て、その場にいる、というのを感じ取ってもらいたいと思っていました」
本作は『好きだ、』以来7年ぶりの新作。この期間が空いたことにも話を振ってみる――。
「自分で描きたい映画が形になるまでに時間がかかったんです。原作があるわけではなく、誰かに頼まれて作っているわけじゃないので、自分がこれは映画にしたいと思えるものができないと、映画を作りたいと言っても、誰も集まってくれないと思うんです。こういう映画が作りたいんだと、自分の思いが形になって、それに共感してもらえる形にするまで、今回は時間がかかりました。あまり器用な方じゃないので、次の映画は何年後に撮影しようというのは思ってもいないし、そこに向けても作れないので」
2003年の『好きだ、』撮影以来、宮﨑とは約9年ぶりに映画を作ることになったが、その印象は――。
「あおいちゃんって変わらないところがあって、根っこの方というか芯が通っている。でも、芯以外のところは柔らかく変わっているんですね。初めて会った時からそんな印象があって、芯が通っていてハッキリしているところを持ちつつ柔らかく変わるところもある。今回もそんな感じでした。今回の脚本はあて書きは全くしなくて、年齢設定だけをしてあのストーリーができて、それから初めてキャスティングしたんです。元々の年齢設定が29歳というのがあって、はじめはあおいちゃんの世代じゃなくて、もう少し上の年齢で考えていたんです。ところがその世代で映画を撮ろうと思ったら、自分がいいと思う人がなかなか3人集まらなくて、それで29歳という年齢にこだわらないで20代後半という幅広い年齢設定にしようと。20代後半ということだったら、あおいちゃんがそうだったのであおいちゃんを軸にしようかなと」
宮﨑が軸になりキャストが固まったがほかのキャストは――。
「忽那さんは、とある映画をスクリーンで観たとき、その感じ方とかが原木という役にかさなりピンときました。サクラさんと吹石さんはある時期にフッと2人が浮かんできたんですけど、最初は配役が逆だったんです。ミキという役にサクラさん、素子という役に吹石さん、というのが何かピンとこなくて、やっぱり逆にしますと。ピンとくるか、という勘のようなものは、キャスティングの時に大切にしています」
Blu-rayとDVDが発売され何度でも手軽に自宅で観ることができるようになります。そのことについて感じていることは――。
「この作品は観るときによって、自分もそうだったりするんですが、感じ方も違うみたいで、観る度に違うということがあるんです。時間が経ってから観るとまた違うと思うんです。そのことを楽しんでほしいです。それはきっと、観てくれているその人の感じ方も変わったんだろうし、前に観た時には気づけなかったことが描かれていた、それに気づけたということもあると思います」
インタビュー中、どんな質問にも言葉を選びながら真摯に答えてくれた石川監督。次回作のことを尋ねると「漠然としたものはたくさんあるんです。『ペタル ダンス』のときもそうだったんですけど、いろんな思いがある。その思いを形にするときに、すべてを1つにすることが、ぱっとはできない。こういう映画を作りたいと思っても、準備期間というか助走期間が長くないと、なかなか形にできないんです。時間をかけて悶々と考えて、思いを書き残していき、その中から残ってきたものしか、オリジナルのものとして自分で認められないというか。でも、もっとシンプルに作りたいという気持ちもあるんです。こういうのが面白そうだ、作ろうと、シンプルにオリジナルで作ってる人を見ると、ビックリするし羨ましいなと思うんです。そのシンプルさがおもしろかったりして、憧れたりもするんですけど(笑い)」と、話してくれた。
『ペタル ダンス』(バップ)はBlu-rayは6090円、DVDは5040円(それぞれ税込)で発売中!