女性ファッション誌『AneCan』(小学館)専属のトップモデルとして活躍している押切もえ(33)。2009年に自身のことを描いた著書『モデル失格~幸せになるためのアティチュード~』(小学館)を出版し、累計16万部を突破するベストセラーとなった。
それから4年、同作の物語部分を膨らませた押切初となる小説『浅き夢見し』(小学館)を8月7日より発売することとなり、モデルへなるまでの半生や主人公のヒトミに重ねた思いなどを尋ねてみた。
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本作を執筆するきっかけは、「『モデル失格』という新書を出したときに、『AneCan』編集部の方から、『いつか物語みたいなものを書きませんか』と言われた」ことだったが、「それで意識していたんですけど、こんなに早く書くことになるとは思いませんでした」と、本人も予想外の展開だったと笑みを見せる。
始めに書きだした部分は、「普段、エッセーとかでは書けない、オーディションに落ちて悲しかった思い出を続きで書いてみたらと言われて、たまたま1、2ページ書いていたものを仲の良い編集者に見せたところ、『書いてみたら』と言われて、それが3年前でした。けれど、そこからなかなかフィクションの話が書けずに1年ぐらい空いてしまいましたね」と、執筆活動を振り返った。
本作を通して「夢とか目標を持つって、大変だけど大切なことだなって訴えたいです。夢は人生にメリハリをくれるものだと思います」と、強い思いを明かす押切。
そんな押切自身の夢を幼少の頃から振り返ってもらうと、「小さい頃は、画家になりたいとか、ケーキ屋さんになりたいとか言っていて、中学生、高校生のときには現実的に公務員って言ってましたね(笑)。親戚に消防関係の公務員が多いんです。実際、弟も消防士になって、安定が大事だと言われていたので」と、堅実なことを考えていたのだとか。
「私がまさかこの職業に就くとは思ってもみませんでした」と、幼い頃からすれば自分でも意外な道へと進むこととなった押切だが、モデルの道を本格的に進むことになったきっかけを「10代のときに読者モデルをやってまして、二十歳過ぎた頃にすごくやってみたいと思っていたんです。でも、その時には仕事がなくなっていて、そこからまた自分で仕事を見つけていくんですけど、しんどくて、コンビニとかスーパーとか工場とかバイトしましたね。小説の主人公みたいに苦しみを与えてます」と、笑う。
モデルになりたいという思いはそんな不遇の時代でも消えることはなかった。「固執はしてなかったですけど、1度やりたいと思ったらもう止められなかったです。なんでモデルになれないんだろうって。でも、どこかで自分の中にどうせなれないっていう気持ちもあったし、夢を整理しないと、という部分ですごく葛藤した部分があります。私の場合は20歳、21歳で周りが自分の仕事を決めていく中で、自分だけが宙ぶらりんだったということがあって、そこが主人公と同じですね」と、本小説と重ねる部分を。
その壁をどう乗り越えたのだろうか。「結構、自業自得というのは多かったですけど、一番最初デビュー当時の仕事がなかった部分とかなんですけど、それをひも解くと自分に原因があった。自分が積極的に人の要望に応えてなかったり、人の意見を聞いていなかったりというのがありました」と、自分を見つめ直すことだったという。
そうして飛び込んだモデルの世界は、「楽で華やかな世界だと思っていましたね。みなさん多くの方が思われているかもしれませんが、ただ華やかで、撮影に行って綺麗な服を着て、パパッと撮ってもらったら、じゃあもう毛皮のカバン持って、サングラスしておつかれって帰って高級車を乗り回してみたいな。そういう風に思っていましたけど、実際、難しいというか、体力的につらいというところもあったり、地味な作業だなと思うところはたくさんあります。日々の摂生とかもあるし、撮影自体も『えっ、こんなとこで撮るの?』っていうのもあります。実際、すごく素敵な服ばかりでもない。それでも、『あれっ、おかしいぞ?』と思われてる服でもうまく着こなすのがプロだし、そういう中で、大変だなというのもあります。ひたすらパンツ100本くらい着替えさせられて、パンツだけ写って顔が写ってないとかもあります。『メイクした意味ないんですけど?』みたいなこともあります(笑い)。その中でどうにか考えて楽しいポイントを見つけつつ、メリハリつけてやっていくというのは大変です」と、下積み時代や舞台の裏側をしみじみと語る。そして、これらの経験が、今回の小説に生きている。
そうして、念願叶ってモデルとして世間にも押切もえの名前が知れ渡った頃、26歳で海で大事故に遭い首の骨を折る大怪我を負った。「そこで3ヶ月半ぶんの仕事をキャンセルすることになって、本当に申し訳なくなって、自分なんていなくなってしまえばいいと思ったりもしました。でも、どん底に行くと前向きにしか考えられなくなりますね。そこまで行ったら上がるしかない!消えてる場合じゃない!自分が返せる恩は全部返そうと思って今も仕事を続けています」と、考え方を変える転機の1つとなったという。
そんな波瀾万丈の押切の半生だが、小説となった本作の登場人物たちに“特定のモデル”はいないという。「主人公の心情とかは投影しています。こんな嫌な人いないよってくらいオーバーに書いていますし、そこまで行かなくても、これぐらいならいるかもしれないというのを書いてます」。
仕事と引き換えに体を求めるプロデューサーとか、徹底的に嫌がらせする表と裏の顔が違いすぎるモデルとか、一読すると読者が「あぁ、やっぱりねぇ。こういうのあるんだ」と思ってしまうようなシーンも描かれているが、あえて、その部分を書いたのは「ずばりフィクションだからですね(笑)実話だったら書けないです!」とサラリという。そして、「私が伝えたかったのは認められてない状況だと、結構、変な縁も寄せ付けたり、自分のキャリアもないからすごく下に見てくる人がいると思うんですよ。そういうのを書きたかった」と、その裏に隠された意図を説明する。
自分の今いるステージを上げる、目標に向かって人生を切り開いていくには、自信を持つことが重要で、人は褒められれば、自信がつくが、「自信を持つ」ことと「評価されること」は、どちらが先なのかと尋ねると、「コロンブスの卵みたいですね。私が普段思っているのは、大女優さんでもない限り、みんなそんなに毎日、褒めてくれないんですよ。たいていの人は、何かをすると『ありがとう』とか、それも言われないこともあると思うんです。やって当たり前という態度をされることが多いと思うんです。けれども、小さな自信の種を植え付けていくと大きく実る気はしますね。
それでも、いくら褒められても自分が自信を持たなかったら結局一緒で、バランスも大事なんですけど、1つ目標を決めるんです。たとえば、“今日1日、不平不満を言わないようにしよう”とか、“笑顔を昨日より多くしよう”とか、ちっちゃいことでも決めていって、達成すると『頑張ったよ、今日』って言ったりすると、意外と明日が楽しくなったりすると思うんです。主人公もそうですけど、1回の何かで人生が大きく変わるってよっぽどのことがないと起こらないんですよね。雑誌にちょっと載ったくらいで応援してくれるわけないし。でも、その積み重ねを長くやっている人が評価されたりすると思うので、1歩ずつを大切に、その1歩を自分で認めてあげるというのが大切だなと思います」と、方法論も熱弁していた。
本著へは、「モデルの押切もえの口からは言えなかったことを、登場人物の口を使って吐き出しているので、ぜひ読んでいただきたい。いつもニコニコ笑顔の華やかな世界の裏では地道な作業もすごくあるし、大変なところもあると思うので、毎日つまらないなとか、なんとなくうまくいってないなとか夢ってなんだっけと思っている方に、何か少し生活のプラスにしていただけたら嬉しいです」と、思いの丈を話していた。
押切もえによる小説『浅き夢見し』は1260円(税込)で好評発売中。