歌舞伎俳優・市川染五郎（40）、尺八奏者・き乃はち（42）が15日、東京・築地本願寺本堂で新作歌舞伎『陰陽師』主題曲奉納演奏に出席した。
今年4月から新開場した歌舞伎座新開場柿葺落9月公演『九月花形歌舞伎』の夜の部『陰陽師 滝夜叉姫』上演を記念してのもの。同作は作家・夢枕獏（52）原作で、初歌舞伎化、新開場での最初の新作と、初づくしの注目が集まる作品で片岡愛之助、尾上松緑、尾上菊之助、市川海老蔵、中村勘九郎、中村七之助らが出演する。
き乃はちは歌舞伎といった伝統的な音楽を担当するだけでなくアニメ『NARUTO』に流れる尺八のパートを担当するなど、型にとらわれない活動で知られている。まずは、き乃はちの代表曲『宙へ』、舞台の主題曲となる『月光波』『夜明』を場内に響かせ、集まった約300人は壮大な楽曲に息づくその尺八独特の音色を楽しんだ。
染五郎とき乃はちの出会いは2008年の司馬遼太郎原作の舞台『竜馬がゆく 風雲篇』で『宙へ』を聴いてのものだったそうで、染五郎は当時のことを「曲を聴いて完成した、すごいものができるという思いにさせていただいた曲だと思いました。それが形になった」と、絶賛。竜馬暗殺まで描かれた舞台だったが、「その日によってなかなか死なないとか」と笑いながら振り返る染五郎に、直前からメロディーを入れていたき乃はちは、「いい経験をさせて頂きました」と、苦笑いする一幕も。
夢枕獏も、そんなき乃はちの楽曲には惚れ込んでいるようで、「3曲聴いてこれで完成したと思いました。イメージをそそられる曲です。歌舞伎座に流れるというので光栄ですね」と、染五郎と同じようなインスピレーションが沸いたそうだ。
安倍晴明を主演する染五郎だが、楽曲までキチッとそろった本作へは自信を持っているようで、「曲という大きな柱というか支えがあるので、絶対すごい作品になると思います。柿葺落としで作られますので、ケタ違いな大きなスケールになると思います。雅で力強くて…。そういう作品になると確信した次第ですね。これからの新作歌舞伎の道筋を作りたいと思っています」と、力強いメッセージを寄せていた。
囲み会見では、き乃はちの本日の演奏について染五郎は「泣くのを歯を食いしばる程ガマンしてました。感動して。本当に…。音楽というのはすごいですよね」と、しみじみ。役作りは現在のところ「まだ（安倍晴明は）降りてきていない（苦笑い）。視覚的なところはありますので、ち密に打ち合わせをして作って行かないとと思っています」と、話していた。
今回の楽曲についてき乃はちは、「台本を読ませていただいて、イメージがすぐ沸きました。安倍晴明というより染五郎さんを思い浮かべました。『竜馬がゆく』で要求されたことを思い出しながらですね」という。作曲中のエピソードへは「ここバイオリンはどうでしょうかと染五郎さんに言ったときに、『いやここは歌舞伎座です！』と言われたことがあって、歴史の重さも背負っているし方楽器だけでどう試行錯誤ができるのかなって」と、語っていた。
2人を見守っていた夢枕は、根っからの歌舞伎ファンといい、「非常に台本はよくできていると思います。一番幸せな男じゃないかなと思います。全部は行けないですけど、全部行きたいくらいです」と思いをはせつつ、「5日間くらい来れます。それ以上来てたら、誰かとの約束をすっぽかしたと思ってください」と話し、笑いを誘っていた。
最後に染五郎は、「記録と記憶に残る作品を目指します。根拠は分かりませんが、絶対にそうなる自信があります！」と胸を張り、昨年8月に重傷の事故に遭って1年の体調について問われると、「体も大丈夫です」と、万全な状態を見せていた。
歌舞伎座新開場柿葺落9月公演『九月花形歌舞伎』は9月1日から25日まで上演！
