
演出家でアーティストのキム・ジンギュが1月18?26日まで、東京・銀座の博品館劇場にて、新感覚アート・エンターテインメント・ショー『オリジナル・ドローイング・ショー The Cube』の公演を行った。オリジナルな音楽に合わせ、驚異的なスピードで、次々と描き出されていく絵画。そこに、ストーリーも存在し、セリフのない演劇的要素も含まれた、幻想的なステージで、観客たちを魅了した。
「ドローイング・ショー」という通り、「描いている過程を見せるショー」なのだが、そのスピードと正確性が信じられない。公演が始まった瞬間、場内は真っ暗になり、俳優3人がスポットライトを浴びてパッと現れる。ハイテンポの曲が流れる中、クルリと背を向けたかと思うと、背面の板に向かって、激しいダンスを踊っているかのように、体全体で躍動感のある動きをしながら、指を走らせていく。

「カン!カン!カン」と、ビートを刻むように板を打つ小気味いい音が会場に響き渡り、ものの3分もかからず、『ORIGINAL DRAWING SHOW THE CUBE』と、直線の線画のみで描かれた武骨な文字が刻まれる。それも、板いっぱいに表現される正確さだ。一瞬、息をのんだかのように静まり返った会場。そして、万雷の拍手が鳴り響く。
いきなりのオープニングに圧倒された観客たち。しかし、次に待っていたのは、もっと度肝を抜くパフォーマンスだった。
登場したのは、横3メートルはあると思われる長方形のキャンバス(キューブ)。ジンギュは、そのほぼ中央に立ちと、今度は、スローテンポの曲に合わせて、繊細なタッチで、木炭を走らせる。それが人の顔だとわかると、そこから、線が下の方に伸び、ひとりの人の上半身が描かれていく。それが、あっという間に、キャンバスの中が、13人の人であふれかえり、レオナルド・ダ・ヴィンチの名画『最後の晩餐』が描かれていく。
しかも、3メートルはあるキャンバスが、左右ほぼいっぱいに使われているのだ。誤解を恐れずに言えば、薄く下書きしたものをなぞっているような正確さであり、描きあげるというよりも浮かび上がってくるという表現の方が正しいように思える。
もちろん、そのようなことはなく、この鉛筆や木炭などの筆記具を用いて描く線画の『ドローイング技法』を、13年もの修練により『超高速ドローイング技法』にまで高めたもので、その技量たるや、まさに神業。
また、この公演には、師匠と弟子との出会いから始まり、2人の芸術表現の葛藤、誤解など、人間の生きるドラマがアート(スーパー・ドローイング・パフォーマンス)を通して描かれるストーリーがある。

圧巻なのは、弟子は師匠の指導のもとで究極の絵画「山河」を完成しようとするシーン。大型キャンバスの前で配置などを考え立ち尽くす弟子。そして、真ん中よりやや右上部に山のような線を描いたが、納得いかない。そこで、師匠がそのまま引き継ぐと、あっという間に、水墨画のような「山河」と、左に生き生きとした魚が描かれる。
すると、先ほど弟子が描き残した山のようなところから、水音とともにキャンバスから蒼い水が流れだす。そのマジックのような仕掛けにも圧倒されるが、描き損じたと思われた弟子の線を活用し、見事に滝に描き替え、「山河」の風景のメインに置き換えてしまう技量に驚かされる。
その後、ストーリーは、水音は弟子の涙に変化する。絵画は、悲しにみに暮れ、苦悩する弟子。諭す師匠。そして、2人の関係には予想もしなかった意外な展開が……。
このほかにも、『サンドドローイング』といって、キャンバスに砂をまき、繊細なタッチとデッサン力で、次々と絵を浮かび上がらせ、ストーリーを展開させていくもの。『マーブリング』といって、水面にマーブリングインクをスポイトで落とし、その輪を花びらに変えていき、偶然ではなく意図をもって描いて、それをキャンバスに映し取っていく。蛍光塗料を使った『ナイトドローイング』、ペンキを使った『フィンガードローイング』など、あらゆるもので、アートを作り上げていく。
そして、最後の最後で、大仕掛けが待っていた。弟子が大型キャンバスに、矢がいくつも刺さりながらも奮闘する荒々しい武士の絵をいっぱいに超高速で『スミドローイング』を完成させた。師匠のジンギュが登場し、掛け声をかけると、一瞬にして、カラーに変転。さらに、背景も現れるという“マジック”のような手法に、拍手が鳴りやむことはなかった。
いまなお、進化し続けるキム・ジンギュのパフォーマンスは、またパワーアップして戻ってくる予定。そのとき、彼の内面世界がどのように飛躍し表現されるのかに注目したい。
なお、昨年12月には『スッキリ!!』(日本テレビ系)、地球テレビ『エル・ムンド』(NHK BS1)、『ゴールデンアワー』(TOKYO MX)、『所さんの学校で教えてくれないそこんトコロ!年末スペシャル』(テレビ東京系)など、さまざまなメディアが注目し取材に訪れている。そんなジンギュの最新情報は、ホームページ(http://www.originaldrawingshow.co.jp/index.html)で要チェックだ。









