スタートアップの成長を加速させていく上で、ニーズが高まっているのがCxO(業務執行役)だという。そこで、コンサル業界に精通した転職エージェント『アクシスコンサルティング株式会社』が3月6日自社オフィスで「急増するスタートアップのCxOポジションの採用実態と最新動向が分かるメディア向けラウンドテーブル」を行った。
(取材・撮影:伊藤直樹©ニュースラウンジ)
トップ写真は、トークセッションに出席した左から『アクシスコンサルティング株式会社』代表取締役会長COO 伊藤文隆氏、『EDiX Professional Group』代表江戸川泰路氏、『株式会社StartPass』代表取締役ファウンダーCEO 小原聖誉氏
2025年CxOポジションの採用実態と最新動向「CxO-Pass」の紹介に続いて、「スタートアップのCxO採用、新しい潮流と可能性創出」をテーマに有識者を招いてトークセッションが行われた。
登壇者は、モデレーターとして『アクシスコンサルティング株式会社』代表取締役社長COO伊藤文隆、スピーカーとして、『株式会社社StartPass』代表取締役ファウンダーCEO小原聖誉氏、EDiX Professional Group 代表江戸川泰路氏
江戸川氏は、数多くの大学発ベンチャーの立ち上げや成長支援に関与された経験から、EDiX Professional Groupを2019年に創業され、スタートアップ、大学・研究機関、VC、大手企業、地方自治体向けのコンサルティングやスタートアップ向けCFO養成プログラムなどを提供している。
伊藤氏:スタートアップが求めるCxOの要件というんですかね、どういう人を求めていますか。
江戸川氏:通常の経営者に求められる要件とスタートアップ特有の要件を3つ挙げた。
通常の経営者に求められる要件として、「例えばコミュニケーション能力、課題解決力、リーダーシップとか、そういうものはスタートアップだろうが大企業だろうが同じように経営者に求められる」とした。
そして、スタートアップ特有の要件3つとして
1つがビジョンへの共感力。
「大体CxOは後で参画するって考えると、スタートアップが目指しているもの、解決したいと思ってる課題をどう解決していくのかっていう、ビジョンに惚れるっていうんですか、やっぱりそこは非常に重要な要素になてくる」
1つはアントレプレナーシップ(起業家精神)
「イノベーションを通じて社会を良くしていきたいっていうエネルギーみたいなのも求められる」と。
1番重要なのが、高い専門性とか業界知見とか人脈
「それまで経験してきたもの、持ってきた、持っているスキルみたいなものがスタートアップにおいては求められる。優秀そうな人とか、地頭の良さそうな人っていうよりは、どちらかというと専門性をしっかり持っている人が即戦力。そういう方が求められるのかな」と。
伊藤氏:スタートアップが割と課題が明確になっていると、そこのフィッティングがしやすいということになるんですか?
江戸川氏:それはおっしゃる通りです。スタートアップの場合っていうのは、人を入れるって言った時も、「人」視点っていうよりは、「今」視点なんです。立ち上げた会社って課題だらけですよ。そのたくさんある課題を解決してくれる人を探して入れたいと思いますから、そこにフィットする人材が求められてくるかなと思います。
小原氏:私どもが向き合っている会社が1000社ある。その多くは創業して3年以内の会社が多いです。今の日本のスタートアップの起業家の方々は、初めて起業される方が95パーセント以上と言われています。アメリカの場合はシリアルアントレプレナー(=生涯にわたり新しい事業を次々と立ち上げる起業家のこと)が多いんですけれども、日本の場合は初めて起業される方が多い。経営経験が最初ないわけですね。
ですので、急に起業した時に、自分と同じ温度感で働いてくださる方っていうのは全然いないんだなってことは後から気づくということが非常に多い。それは、だいたい2年後ぐらいに来るんですよ。
その時に、じゃあどうやってそういう方々を採用していったらいいのか。1つのソリューションとしてあったのが、昨年、日本でスタートアップ領域において1番大きい上場した会社は、テレビCMで見たことあると思うんですけども、『タイミー』という会社が上場されたんですが、『タイミー』さんはまさに創業して2年目ぐらいの時にですね、
公表情報ですから言っていいと思うんですが、アクセンチュアに元々おられた方[元タイミーCOO/CFO川島諒一氏(元アクセンチュア)]が、たまたま業務委託で、タイミーの学生企業家の小川嶺 (代表取締役)さんというところと交わって、業務委託で3ヶ月お仕事された後に入られて、当初はCOO、CFOを兼務する形で、なんでも屋という形で入っていかれているんですね。それで非常にいい上場されていかれたというのがありますので、そういった創業者と同じぐらい熱い気持ちでハードワークできる人というのが、特に創業3年以内においてはとても大切だという風に思います。
伊藤氏:2つ目のテーマとして、「CxOのシェアリングとか、あと副業の可能性」についてちょっとお話をお伺いさせて、ご意見いただければと思います。
江戸川氏:結論としては極めて有効です。ネット系のイメージを持たれたと思うんですけど、例えばディープテック(=科学・工学の技術を駆使して、社会課題を解決する革新的な技術)とかライフサイエンス(=生命の仕組みを理解することを目的とした科学技術分野の研究)、大学発ベンチャーでイメージしていただくと、最初、会社作る時っていうのは、もう大学の先生が、例えば10年、20年ずっと研究してきた研究成果で事業化できそうなものが出てきた、社会を変えるようなものが出てきたんで起業しようと思って起業するわけですよね。
この時ってどういうメンバー構成かって言ったら、大学の先生は決まっていますよね。だけど、他は経営者が誰もいないっていう状態で会社を作るわけです。で、これ、会社作っても、ディープテックやライフサイエンスはその後もしばらく研究開発を進めなきゃいけないので、赤字が続きますよねえ。こんな会社に、じゃあすごいピカピカの優秀な経営者がフルコミットで来てくれますか。っていうと、難しいと思うんですよね。それで、フルコミットできますっていう、フルタイムで来ますっていう人が出てきたとして、じゃあその人が本当にその会社を成長させるベストの経営者かって言ったら、そうじゃない確率の方が高いわけです。すがる思いでそういう方をフルタイムで入れてしまうと、もう資本政策で失敗するとか、後々トラブルが起きるとか、いろんなことが起きるわけですよ。で、やっぱりネガティブなことが、いい技術があっても起きてしまうと、投資家もつかないですし、事業もうまくいかないんです。
やっぱりそういう時に、経験豊富な高い専門性を持っている方がパートタイムで、シェアリングでだったり副業で関わってくださったら非常に助かるわけですね。で、それで会社が伸びて資金調達ができたり、会社が伸びてくれば、フルタイムに切り替えるっていう風になってくるでしょうし、またCOOとかCFOを入れていくってこともできるようになるわけです。
やっぱり最初のね、そのCFOとかCTO、COOなんかも最初はフルタイムだと難しいっていうタイミングは結構長く続くので、こういうところをこうベストなチームを組んでいくっていう、こうことから考えると、副業で関わってくれる、シェアリングで関わってくれるって方が増えてくるっていうのは非常に重要な選択肢になってきます。
小原氏:スタートアップのCxO採用において、副業っていうのは、もちろん有効です。これは物理的に説明できるところがありまして、優秀なコンサルの方々というのは、年収非常に高いです。年収が高い中で、ミッション、共感のあるスタートアップに巡り会えたとしても、大抵、ご自宅のローンがあったり、もうご家族も増えておられたりしますので、いわゆる、「嫁ブロック」という言葉聞いたことあるかもしれませんけども、転職する時に、転職はいいけれども、経済条件のところはお父さん落とさないでくださいねいう話に当然なると思うんですね。私も妻だったら当然そう言うと思います。
スタートアップの実態としまして、私の場合はネット領域かつ創業3年未満が多く向き合ってらっしゃる方々なのでですね、そう考えると、年収高くお出ししたいとはいえない。ない袖は触れないというまた現実でもあります。だとした時に、急にフルコミットはせずとも、本当にこの会社っていうのは自分が考えてるミッションとミートしてるのかな。で、かつ、この会社、そもそも本当に伸びるのかな。ていうところは、働く側の方からしてみると、しっかりとデューディリデンス(=投資やM&Aなどの取引において、対象となる企業や資産を調査する一連の活動)しなければいけない項目だと思うんですね。
なので、まずは副業からありますと。で、採用する側のその企業側からしますと、その方がもし年収を落としてくださって入ったとしてもですね、そう言ってもやはりダントツ1番年収高くなるようにはやっぱりなると思うんですね。だとすると、今一緒に働いてるメンバーよりも、この方に対してなぜその年収をお支払いすべきなのかっていうことは、株主に対しても説明責任も当然ありますし、それを果たすためにも、副業機関を通じて、この人だったらうちの会社の時価総額をもうあげてくれるという風に思えば、いやもう今は我が社にとっては高い年収かもしれませんと。
でも、まずは年収をちょっと落としていただきますし、加えて、ストックオプションに対して時価総額っていって価値がつくものなので、それも付与することによって、お互いがハッピーになるという世界観を作れるので、それは急に転職してからはですね、できないものだなというのがありますので、本当に副業は物理的に有効だという風に思います。
伊藤氏:そうですね。我々、正社員の転職のご支援のサービスもやっておりますし、当然そのVCさんからCクラスの求人のお預かりすることもあるんですが、最初からやっぱ出ないんすよ。なんとなくあれですよね、Cクラス経営幹部で1000万出るか出ないかなぐらいな、800万から900万ぐらい多いっすかね。そうすると、大体だが、求めてるスキル、経験みたいなとこで言うと、市場価値で言うと年収1500万ぐらいのですね、市場価値の方のスキルセットを求めてらっしゃるので、そこはやっぱりなかなかフィットが難しいですよね。
江戸川氏:大学発ベンチャーの2018年から2022年までの数の推移を経済産業省が取りまとめて出してるものがあって、この中で日米で比較しているのですけど、日本は毎年大体2、300社の大学発ベンチャーが生まれていて、2018年と2022年と比較すると、大体1500社ぐらいだったかな?が増えているんです。アメリカは毎年1000社ぐらいの大学発ベンチャーが生まれているんですけど、2018年と2022年と比較すると、数は変わってないんです。つまりですね、日本の場合はスタートアップも新陳代謝がされないっていう文化なんです。
アメリカは新陳代謝が凄いんです。毎年1000社作るんだけど、毎年1000社なくなってるんです。つまり、cxo人材のところだけ見てみると同じ人材が何回もやってます。
日本は、cxo人材が1回チャレンジして、その会社にずっと長く勤めて、上場後もずっといる。そうすると、何回も経験する人っていうのは実は結構少ないっていうのと、新しくそういう人材を増やしていかないと、スタートアップ育成5か年計画のようにはならない。
やっぱり、スタートアップの新陳代謝と人材はすごい関係性が深くて、そういう意味で貴重な人材の方にたくさんのスタートアップをサポートしてもらいたい。
伊藤氏:CFOの養成講座もやってらっしゃいますけども、そこのスタートアップからのお問い合わせなんかも結構増えてらっしゃる感じですか。
江戸川:そうですね。元々やっぱり今、日本で上場準備に入る会社っていうのが大体毎年350社ぐらいで、そういう会社みんなCFOが必要だと。でも、人材育成するプログラムが大学にもない。であればそういうの(人材育成を)やってみようでやったわけですけど、毎年20人ぐらいしか育てられないので、全くその数のでは足りない。人材を探してる経営者の方とかベンチャーキャピタルの方からはすごく問い合わせをいただくので、ニーズは非常にあるなと。