東京映画記者会(在京スポーツ7紙)が選ぶ「第55回ブルーリボン賞」の授賞式が14日、東京・内幸町のイイノホールで行われ、在日コリアン2世のヤン・ヨンヒ監督(48)が身らの体験を基に、「帰還事業」により北朝鮮と日本に引き裂かれた兄と妹、その家族の姿を描いた『かぞくのくに』(監督:ヤン・ヨンヒ/配給:スターサンズ)が、作品賞、助演男優賞、主演女優賞の3部門に輝いた。
ヤン監督は、主演女優賞の安藤サクラ(27)と助演男優賞の井浦新(38)が、3人で受賞できた喜びを語り、監督に感謝の言葉を述べると、何度も涙を拭っていた。
ヤン監督はステージに上がると、「ここ数週間、製作過程が走馬灯のように思い出され、実体験をもとに10年以上温めていた作品を初めて劇映画にしました」と、感慨深げに語った。というのも、「劇映画初めての監督で、タブーのように言われる北朝鮮ネタはリスキーだ」と、断られ続け、「こうやって、映画の企画が潰れていくんだなぁ」と、実感したという。そんな中でも、気概のある人たちが、「断ったところを見返してやりましょう」と、立ち上り陽の目を見たという経緯があるからだ。
その結果、『第86回キネマ旬報ベストテン』で日本映画の1位に選ばれ、安藤サクラが主演女優賞。『第67回毎日映画コンクール』脚本賞。『第64回(2012年度)読売文学賞』戯曲・シナリオ部門を受賞したばかりでなく、2012年8月4日に公開されて以来、今なおロングラン上映されている。
そして、ヤン監督は、「映画を見せることはできませんが、北朝鮮の平壌おります私の兄たちと甥っ子姪っ子たち」に、受賞の喜びを伝えたいと語った。さらに、「ダイレクトに『おばさん頑張れ』とメッセージを送れないような状況の中で生きておりますが、こっそり、応援するようなメッセージを送ってくれまして、それを母が折って折って畳んで畳んで、見つからないようにバックの底に隠して持ってきてくれました。いつか、映画を作ったからって家族に会えなくなるような、そんなアホらしい時代があったなぁと笑い飛ばせると思います。遠い未来ではなく近い将来になればいいなぁ・・・」と、理不尽な思いを熱く訴えた。
助演男優賞を受賞した井浦は、受賞のひとこととして、「ヤン監督、監督の人生をかけた闘いに僕を誘っていただいてありがとうございました。監督のお父さま、お母さま、お兄さまに心から感謝しております、これからも素晴らしい作品をつくりつづけ、闘い続けて下さい」と、メッセージを送った。
また、主演女優賞を受賞した安藤は、「今日は、監督と新さんと一緒に立てているのが凄く嬉しいです。撮影が2週間だったんですが、ひたすらヤン監督の思いに、みんなが付いて、凄い死ぬ気で闘った作品。どんな力でも変えられないものがあるが、それをちょっとでも動くことで変えられるんじゃないか。この映画はそのエネルギーが凄くある。見えないものを動かせる力がある」と、熱く訴えた。
ヤン監督は、2人の言葉に、ただただ、何度もうなづき、感謝の涙を流しつづけていた。
【各賞の受賞者と作品】
作品賞 『かぞくのくに』(ヤン・ヨンヒ監督)
外国賞作品賞 『レ・ミゼラブル』(東宝東和の新井重人・取締役宣伝担当)
監督賞 内田けんじ(「鍵泥棒のメソッド」)
新人賞 マキタスポーツ(『苦役列車』)
特別賞 故若松孝二監督(三女で若松プロの伊藤宗子が代理で受け取る)
助演男優賞 井浦新(『かぞくのくに』)
助演女優賞 広末涼子(『鍵泥棒のメソッド』)
主演男優賞 阿部寛(『麒麟の翼~劇場版・新参者』『テルマエ・ロマエ』『カラスの親指』)
主演女優賞 安藤サクラ(『かぞくのくに』)
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