俳優・筧利夫(50)、平幹二朗(79)、女優・福田沙紀(22)らが31日、東京・天王洲銀河劇場で舞台『テイキング サイド~ヒトラーに翻弄された指揮者が裁かれる日~』(演出:行定勲)公開げいこを開いた。
舞台は1940年代ドイツ。ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の常任指揮者・フルトヴェングラー(平)は台頭したヒトラーから寵愛を受け活躍していた。しかし、第2次世界大戦以降立場は一変し、戦犯扱いとなる。彼を取り調べることになったアメリカの少佐アーノルド(筧利夫)は、自身の悲惨な体験からナチスを憎んでおり、その取り調べは過酷さを極めフルトヴェングラーは次第に追い込まれてしまう。その様子を見ていた周囲の者たちの中には、その昔、戦時中のフルトヴェングラーの公演を聞いて、生きる希望を持った者などがおり、フルトヴェングラーの方に心を動かされる者も現れ…。
アーノルド少佐の部屋で物語のすべてが展開し、派手なアクションなどはなく照明も暗め。しかし、その重厚なセットが役者同士の感情をぶつけあう姿をまざまざと浮き上がらせる。芸術による癒やしの効果、それとは対極に位置する政治利用による祖国愛の喚起。簡単に割り切れないメッセージがアーノルド少佐とフルトヴェングラー双方のゆらぎを通じて感じられる作品だ。
終了後の囲み会見で本作で4度目の舞台での演出を担当する行定監督(44)は、本作を上演しようと思った理由について、「一昨年に震災が起こった時に、映画監督とか舞台俳優は、芸術というのがどういう位置にいるのか考えたと思うんです。そのとき、フルトヴェングラーも休止させられて演奏ができなくなったという、考えとシンクロしちゃったんです。震災と一緒ではないと思いますけど、芸術とはどうなんだというのが重要になってきたと思うんです。芸術によって見えなくなるものや救われるものがある。それはどっちがどう捉えるかというところで通じるのではないかと思ったんです」と、狙いを語る。
本作は1人1人の会話の量が多く、とくに筧は喋り通しのセリフがあったり出ずっぱりと大変だが、「(劇中に)出てくるコーヒーを自分の好きなタイミングで飲めるから、大丈夫です。ずいぶんうまい具合にセリフを集中させてくれて作ってくれているので、舞台をやっている感じというよりは、舞台と映像の仕事の中間くらいかな」とコツを明かす。
一方、筧とは2度目の共演となる平は、「3分の1くらいしか出ていないけど、重要な役どころ。好きなことを話せるかなと。筧さんが引っ張ってくれるのでそれに対して怒ったりすればいいので」と、語ると、アーノルド少佐の秘書官を務めフルトヴェングラーを擁護する立場をとる役の福田は「2人に比べるとセリフは少ないのですが、最初、2人のテンションの中に入っていくのにどうしようと思ったんです。一緒に出演しているのに筧さんとあまり話せていないので会話していきたい」と語り、筧も「もっと会話しよう」と、笑みを見せていた。
また、「子供でしたけど戦争中のことなので、戦争の恐ろしさ、戦後の大変さを知っていますし、同級生が原爆で亡くなっているんです。僕は80まで生きてしまいましたけど、生きていることを見せていただきたいなと思っています。昔の話ではなくて、いまの話だと思ってやっています」と語っていた平は劇中追い詰められて涙するシーンがあるが、「本当は泣きたくないんだけど、戦争中の大変な体験で泣きたくなってしまうんです」と、役と自身の体験が重なっていると明かし、続けて「何度も演じれば泣かなくなるかな」と、照れ笑いしていた。
舞台『テイキング サイド~ヒトラーに翻弄された指揮者が裁かれる日~』は2月1日より公開!
■公演詳細
東京公演:2013年2月1~11日・天王洲銀河劇場
名古屋公演:2013年2月16日・名鉄ホール
静岡公演:2013年2月19日・浜松市教育文化会館
大阪公演:2013年2月23、24日・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
広島公演:2013年2月26日・広島アステールプラザ 大ホール