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篠田正浩監督弔辞全文 鬼籍に入った“大島組”の仲間たちに声詰まらせる

篠田正浩監督弔辞全文 鬼籍に入った“大島組”の仲間たちに声詰まらせる
大島渚監督

 今月15日に肺炎のため80歳で亡くなった映画監督の大島渚さんの告別式が、22日東京・築地本願寺で行われ映画監督の篠田正浩(81)が弔辞を読んだ。

《以下、弔辞全文》

 大島渚、あなたが映画監督としてデビューしたのは1959年の『愛と希望の街』です。27歳の新人の出現で松竹大船撮影所はどよめきました。映画の原題は『鳩を売る少年』、あなたは鳩の帰巣本能を利用した少年の不正行為を描きました。少年は汚れのない純粋な存在だという常識を木っ端微塵に打ち砕くものでした。しかし、会社はこの深刻な少年のイメージを嫌って、公開時に『愛と希望の街』に改題してしまいました。大島渚が映画監督として最初に直面した規制。あなたの言葉で言えば“枠”の体験でした。

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 あなたは日本映画が直面する政治をまともに描かないことに苛立っていました。あなたは5歳の時、大島渚と命名した水産学者の父君を亡くし、勤務していた瀬戸内の水産試験場のモダンな官舎から母君の実家のある京都へ転居しました。その京都の町屋の暗がりの中で父君が残された書籍群の中に発禁処分になった高畠素之訳の『資本論』を目撃したことが自分の人格形成に関わったとあなたは語っていました。世間が定めた禁書のような規制、“枠”の存在を自覚するようになったということです。その“枠”との最初の衝突が『愛と希望の街』だったと私は思います。

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大島渚監督

 それでも松竹があなたに新作を求めたのはテレビという巨大なメディアの出現で映画館の観客は激減していったからです。そして1960年。日米安保闘争という政治の季節が目前に迫ってきておりました。“大船調”ではこの難局を乗りきれないという緊迫の中であなたは会社の期待に応えて、『青春残酷物語』『太陽の墓場』をヒットさせました。それでもあなたはこの成功に安寿しませんでした。

 大島渚、あなたは現実主義者です。60年安保を体験することで日本では革命は起きない、起こせないという認識を持っていました。だからこそ、映画監督として“大船調”という“枠”を破ろうと決意し、大学紛争の絶望的な討論劇『日本の夜と霧』を作りました。が、公開直後、浅沼稲次郎が右翼少年により刺殺され上映中止となりました。これを契機にあなたは松竹を離れ独立プロ『創造社』を立ち上げました。このことは単に映画会社からの独立したというだけではなく、映画という“枠”から離脱もあったのだと私は思います。1968年ATGを拠点にして、あなたは驚くべき低予算で『絞死刑』を発表します。殺人罪で死刑を宣告された在日朝鮮人Rの死刑執行を巡るドラマで、悲劇的な主題にもかかわらず、時には哄笑したくなるような喜劇性を撒き散らすという破天荒な展開でした。この顛末の果て、日本という国家が内包する矛盾や悪が暴露されていくのです。これまでに私が見たことがない映画でした。世界が大島渚を発見しました。サミュエル・ベケットは『こんな不条理があっていいのか』と驚嘆しました。

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『絞死刑』

 大島渚、あなたは花鳥風月を捨て、目の前にある政治の現実と真っ向から対立しました。あなたの求める作品は常人の理解を超えるものになっていきました。それ故、映画を撮ることの困難は増すばかりでしたが、あなたは屈しなかった。その闘争に共鳴して、多くの人材が集まり映画を作り続けました。しかし、石堂淑朗、田村孟、佐々木守、戸田重昌、(妹の)大島瑛子、渡辺文雄、戸浦六宏、小松方正、佐藤慶そして、若松孝二らの庶子はすでにこの世にいません。(妻の)小山明子さんだけがあなたを支えました。1996年病に倒れてからの18年間、小山さんはあなたと住処を共にし、全身全霊を傾けて介護してくれました。

 大島渚、あなたには武と新と名付けた息子がふたりもいます。彼らがこれからの小山さんを……(声を震わせ)支えてくれることは…(絶句)……もう私に言うべきことはありません。ただ、あなたの遺影を前にするとあなたの残した作品群の題名が次々と蘇っています。映画監督・大島渚の闘いがひとつひとつ題名から見えてきます。だから、大島渚、あなたの死が確実になった今も喪失感はありません。篠田正浩。

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『少年』
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『儀式』
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『愛のコリーダ』
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大島渚監督
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