(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授の南澤孝太氏(左)と『パナソニック株式会社』ロボティクス推進室室長の安藤健氏(右))
中外製薬は、各界のトップサイエンティストやビジネスリーダーを講師に迎え、「ヘルスケア×デジタル」のトレンドを紹介するオンラインイベント「CHUGAI DIGITAL DAY 2021」を、18日に行った。
同オンラインイベントは、「中外製薬のビジネスを変革し、社会を変えるヘルスケアソリューションを提供する」という考えのもと、ヘルスケア課題の解決に必要な方向性やイノベーションのヒントを提供することを目的に、昨年より開催されている。
2回目となる今回は、ヘルスケア分野のDXやデータ・AIの活用に興味のある社会人・学生一般参加者約1,700名がオンラインで参加した。
また、トークセッションでは「ヘルスケア×デジタル」の未来予想や、業界を超えた共創のかたちについて、参加者からの質問も交えオープンなディスカッションが行われた。
なお、イベントの模様は12月中旬以降に同社の公式YouTubeチャンネル「中外製薬 Chugai Pharmaceutical」(https://www.youtube.com/chugaijp)にて公開予定。
当日のブログラムは、1)『生命・医療の概念を革新する、AI・人工知能』、2)『誰ひとり取り残さない未来へ、人の拡張で挑戦する』、3)『「ヘルスケア×デジタル」が貢献する、未来のWell-being』、4)『ビジネスで社会課題解決へ、データでつながるマチ・モノ・ヒト』の4部構成で、計11名の講師が登壇。それぞれの取組みや事例が紹介された。
その中で、セッション2.Beyond the Human テーマ「誰ひとり取り残さない未来へ、人の拡張で挑戦する」に参加(視聴)。
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授の南澤孝太氏と『パナソニック株式会社』ロボティクス推進室室長の安藤健氏が登壇した。
南澤教授は、「新しいテクノロジーがいかにこれから人間の身体とつながって、人々の可能性を拡張するか」について語った。
「人の感覚や身体をデジタルネットワークと接続することにより、一人一人の人間がいかに自分の身体、自分の経験をデジタル空間越しに共有する。ゼロから新しく創造する。普段感じているような経験を拡張していくことを『身体性メディア』と呼んで研究しています。特に、視聴覚に加え触覚も伝えるコミュニケーション技術は、体験の共有を可能にし、臨場感だけでなく、離れた人々の共感やつながりを創出」するといい、スポーツ観戦や音楽LIVEの臨場感が増すだけでなく、「Synesthesia Wear」という体全体で感じるウェアを着ることで、全盲の人でも杖を使わずに、周囲の状況を把握できるようになる可能性がある。
さらに、人間の行動を遠隔地で空間を超えて伝送する技術が、テレイグジスタンス・アバターで、「ロボットが勝手に動くのではなく、人間の動きとシンクロして動く。ロボットが見たもの、聞いたもの、モノに触れた時の感覚が人に伝わることによって、自分自身がロボットそのものになったような。アバターという分身そのものに自分自身が乗り移ったかのような感覚で、自分と別の場所で行動することができる」そうで、介護施設に入院しているお年寄りがお孫さんの結婚式に出席して、ロボットの体を使って親族と触れ合ったり、寝たきりの重度の障害を抱えている人が実際に働く、『分身ロボットカフェ』という活動も始まっているという。
最後に、「どんどん人のライフスパンが長くなる中で、いろんな出来事が起こる。そういった時に、メガネやコンタクトレンズといった技術が視力の弱い人をもはや障害とはみさないで済むようになっているように、人間の我々の生活とか、Well-beingと呼ばれるものに対するさまざまな障害を克服して可能性を広げる。そういったもうひとつの身体がある未来社会を生み出せるのではないか」と、南澤教授は、その可能性について熱く語った。
続いて、安藤氏は、「人も社会もWell-beingな世界を目指したテクノロジーの研究開発」について発表した。
「病院の中で医薬品を運ぶ自律搬送ロボットや創薬支援ロボット、収穫ロボットなど、作業を自動化し生産性を向上させるロボットを開発してきました。その一方で、なんでもかんでも自動化していいのか。ロボティクスをはじめとしたテクノロジーは人手不足の解消や経済成長だけでなく、『自分でしたい』『自分らしくありたい』という自立性・自己実現や『人と人との繋がり』という両立した社会をどう実現するか」と、考えたそうで、これをwell-beingと定義した。
さらに、身体的、精神的、社会的に良い状態であること。この3つがそろって初めてwell-beingだとし、well-beingな社会の実現を目指す「パナソニックAug Lab」を作った。そこでは、ヒトの感性を解析・理解して幸福度の向上に繋げることを目的に、さまざまなプロトタイプを開発しているという。
その具体例として、子供と親のコミュニケーションをどうやったら促進できるかということで、お腹にカメラがついている「babypapa」を使った実験の話を紹介した。
子供がロボットの前に来たり、ロボットと遊んでいる。定期的に写真を撮ってくれる。その写真を親と共有することができるので、その写真をきっかけに会話が生まれればと言うのが当初の狙いだった。
ところが、「(babypapaが)洋服を着て帰ってきてた」という。事の詳細を聞くと、「娘さんが気に入り『洋服を着せたい』ということになったそうで、そこから、採寸して、色を決め、布屋に行ったがコレという布が見つからず、どうしようとディスカッション。家に帰ってから、はさみを使って洋服を作ったそうで、理想ですよね。ロボットが人と人とのつながりのきっかけになり、親と子の会話が生まれ、作業して、楽しいひと時を過ごすことができたんですから。
また、「コケに足を生やしてみた」ところ、光が好きなコケは光を当てれば寄ってくるが、光が嫌いなコケは逃げていく。また、水が好きなコケもいれば、湿り気が嫌いなコケもいる。コケそれぞれにも個性がある。というデバイスを作って何人かにに遊んでもらったところ、「コケを見た。触った後に街中のコケがきになったそうです。体験するとコケの存在に気づくきっかけになるんです」と語り、さまざまな実験を通して、人にも社会にもWell-being(良い状態)を作っていこうとしている。
■当日のプログラム
開会の挨拶
奥田修(中外製薬株式会社 代表取締役社長 最高経営責任者(CEO)
中西義人
(中外製薬株式会社 デジタル戦略推進部長)
全体進行・ファシリテーション
01_Science, Technology and Innovation
テーマ『生命・医療の概念を革新する、AI・人工知能』
生命・医療分野での破壊的イノベーションを起こしつつあるAI(人工知能)技術。熾烈な国際競争の中でトップを走るAIユニコーン企業、メディカルAIのリーダーが最先端の研究と応用事例を紹介。AI社会実装の現状とチャレンジ、未来展望を語る。
02_Beyond the Human
テーマ『誰ひとり取り残さない未来へ、人の拡張で挑戦する』
病気だけではない。乳幼児、高齢者、障がい者、誰ひとり取り残さない未来を創るために、人々の身体と健康を支援するロボティクスやVR/AR。人の機能拡張に挑む第一線のイノベーターが、テクノロジーで変わる人と社会、ヘルスケア業界との共創の可能性を探る。
03_Digital Health for Well-being
テーマ『「ヘルスケア×デジタル」が貢献する、未来のWell-being』
データ活用を基盤に「オンライン診療」「予防医療」を推進するヘルステック企業のリーダーが、ビジネス戦略や展望を紹介。中外製薬による個別化医療の取り組みも紹介し、各社に共通するWell-beingの実現に向けた課題やデジタルヘルスの今後を話し合う。
04_Digital Ecosystem
テーマ『ビジネスで社会課題解決へ、データでつながるマチ・モノ・ヒト』
スマートシティ構想で取り組むべき社会課題として中心にあるヘルスケア。業界の枠を超えエコシステム構築に取り組むリーダーが登壇。マチ・モノ・ヒトをつなぐ日本型エコシステム構築に向けて議論する。