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団鬼六さん死去にインタビューで語った断筆の理由

 今から、20年ぐらい前のことだと思うので、正確な所は定かではないが、ある雑誌で団鬼六先生にインタビューをしたことがある。

 SM作家として知られていた先生。それも、『花と蛇』の大ファンであった記者は、憧れの先生に会えるという感動とともに、女性を精神的にも肉体的にも追い込んでいく描写は、まさに、「鬼」。絶対にサディストだと思い、失礼な質問をしたら怒鳴られるんじゃないかと、ドキドキしながら、先生の自宅に向かった。

 編集者から教わった住所に行くと、ちょっと、木が茂った道をずっとすすむと、玄関にタヌキの置物がある鎮座している鬼六邸に到着した。一軒家の日本家屋で庭があり、畳の部屋があって、縁側にイスとテーブルがある。そんな想像していた通りの家だった。

 そこへ、着物姿に足袋をお履きになり、眼鏡に白髪、ふっくらした体型の団先生がゆっくりと登場してきた。緊張しながら質問をする新米記者に、ニコニコしながら、丁寧に応えてくれていたのを覚えている。それは、好々爺というイメージで、優しかった。

 1時間か2時間ほどのインタビューだったが、いまとなっては、どんな質問をしたかもよく思い出せないが、その中でも、先生の言葉で印象に残っているものが、「最近の若いヤツは、初めから官能小説家を目指すからダメなんだ。純文学を目指せ」というものだった。最初から安易に官能小説家を目指したら、官能小説家にもなれない。とまで言われたかどうか、忘れてしまったが、そういうことが言いたかったのだと思う。

 さらに、89年に断筆した理由として、「俺が、『トキ色のけだし』と書いたら、いまの編集者は、なんですかそれと聞いてきた」と、いう。

 「トキ色」とは、「鳥のトキの羽の色。うすいピンク色」のこと。「けだし」というのは、「蹴出し」と書いて、「裾除(すそよ)けともいい、和服を着る際に下半身につける下着の一種。肌に直接、腰巻きをつけ、その上に巻きつける下衣。長襦袢の代わりにすることもある」という意味だと、説明したところ、その若い編集者は、「じゃ、ピンクの腰巻でいいですね」と言ってのけたという。

 それを聞いた先生は、「情緒もへったくれもない。俺が書く世界は理解されないんだな」と、断筆を決意したと、さびしそうに語っていた。

 時おり、きらりとギンブチ眼鏡の奥で光る眼光の鋭さと、たばこを根元まで吸って、親指と人差し指か中指の2本の腹で、火種ごとつぶして消すのには、ブルったことを思い出した。

 駆け出しの記者として、団先生への取材で、志は高く持っていないといけないということと、日本語の美しさ、大切さ、情緒というものを教わり、いまだに、心の中に刻み込まれている。

心からご冥福をお祈り申し上げます。

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