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鋤田正義氏が忌野清志郎さんとの撮影秘話明かす!「危険な場所でも腹据わっていた」

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清志郎さんとの思い出を語る鋤田氏(右)と箭内氏

 カメラマン・鋤田正義氏(74)が8日、都内・タワーレコード渋谷店で、自身が撮影した写真集『SOUL 忌野清志郎』(集英社)発売記念トークショーをクリエイティブ・ディレクター・箭内道彦氏(48)とともに行った。

 09年5月に死去したロックミュージシャン・忌野清志郎さんが91年、アルバム『Memphis』のレコーディングのため、リズム&ブルースの聖地であるメンフィス、ニューオーリンズ、シカゴ、ニューヨークを回った模様を収録した同写真集。鋤田氏といえば、清志郎さんだけでなく、デヴィッド・ボウイや『T.REX』のマーク・ボラン、『YMO』、布袋寅泰と国内外問わず、ミュージシャンの撮影を手掛けたカメラマンとして名高い。この日は観覧無料ということで、一般の観客も集まり、地方ロケの現場を一時抜け出し、また現場に戻るというハードスケジュールながら駆けつけてくれた鋤田氏が登場すると、拍手で迎えた。

 当時の写真は92年、『月刊PLAYBOY』(集英社)に掲載されたが、「その1回限りだけだったので、ちょっともったいないなあと思って。清志郎さんの写真に対するコメントも入ってるし、なんとかもう1回本にしたいと思って、担当の方に頑張ってもらって、ようやく本ができあがりました」と、同写真集をリリースした経緯を語る。

 飛行機の移動もエコノミークラス、約2週間と拘束期間も長い仕事だったようで、それでも鋤田氏が引き受けたのは、「まだ清志郎さんが『RCサクセション』をやってる頃に(※91年当時は事実上、活動休止)、糸井重里さんとか周りにファンが多くて、『行こうよ』ってよく誘われてたんです。そんなに大きくないライブハウスでも何回か観たことがあって、気にはなってました」と、やはり清志郎さんに魅力を感じていたからのよう。

 「僕は『YMO』も撮影していたし、『HIS』(※清志郎さん、細野晴臣、坂本冬美のユニット)が大好きで、凄くうまい遊び方というか感心していました。時期的にはその直後ぐらいなので、僕の中では、撮りたいなという気持ちは盛り上がってました」と、タイミング的にもバッチリだったようだ。

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 箭内氏が「清志郎さんと鋤田さんは何か共通点を感じる」と切り出し、「カメラを持つと、みんなが止めても撮ってる感じがあるじゃないですか。清志郎さんもメイクを落とすと、物凄くシャイだし、静かで優しくて。その2人がメンフィスの街を言葉少なにぽつらぽつらと歩きながら撮ってたんだろうなと思うんですけど」と、当時の2人の姿を想像すると、鋤田氏は「1日、2日はお互いシャイで(会話もほとんどなく)、僕もロードムービーみたいに同時に撮っていこうという気持ちがあって、あんまり構えるような撮り方じゃなかった」と返答。89年に公開された映画『ミステリー・トレイン』で、鋤田氏はスチール撮影を担当しており、同じくメンフィスが舞台だったということで、「その3年後、たまたま清志郎さんだったので、スチールとの違いはあるかもわかんないけど、なんかスーッという感じで撮っていきました」と続けた。

 清志郎さんと鋤田氏の間には、スケジュールをきっちり決めるなどの約束事はなく、「だいたい行く場所ぐらいですかね。泳がすというか、こっちをあんまり意識させるより、旅をしながら流れで。こっちに引きつけるという感じではなく、清志郎さんができるだけ好奇心を持ったものを撮っていきましたね」という撮り方だったとのこと。清志郎さんが『Memphis』のレコーディングをほぼ終えた後に、鋤田氏が合流したようで、「ホッと一息みたいなタイミングだった」こともうまく作用したようだ。

 清志郎さんのソロアルバム『Memphis』は、綿畑のジャケットが印象的だが、鋤田氏は「やっぱり綿畑=黒人の歴史みたいな、労働者を描いた映画に接していたので、メンフィスといったら綿畑を撮りたいなというのは、前々から思ってました。最初からこういうジャケットになるというわけでもなかったけど」と明かす。

 箭内氏が「鋤田さんと清志郎さんってどんな話されるんですか?」と聞くと、鋤田氏が「あんまりしてないです(笑)」と返し、場内が笑いに包まれる。さらに鋤田氏が「アニマルズの『朝日のあたる家』ってこの辺にあるらしいですね~ってポロッと僕が言ったら、清志郎さんが『なるほど、そうか』って言って。でも、話を聞いたらもうそういう家はなかったですけど」と、清志郎さんとの会話を回想した。

 ここで、箭内氏が「清志郎さんってポツンとしゃべるのがいいんですよね。よくCMにも出てましたよね。CMソングも『パパの歌』とか歌っていて、『清志郎さんにとってCMってなんですか?』って聞いたら、『う~ん……』って何秒間か黙った後に『アルバイト』って言ったんですよ」とぶっちゃけると、場内爆笑! これには、鋤田氏も「僕も、そう言うよ。これから」と苦笑いしていた。
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 ここで、沼地でしゃがんでいる清志郎さんのモノクロの写真が紹介され、「ニューオーリンズのバーボン・ストリートは観光地という感じだったけど、その後のデルタ地帯とか静かなところに行くと、家族連れで魚釣りをしていた。そっちのほうに自然に足が向いて、静かな清志郎さんを撮りましたね」と解説。「清志郎さんといえば、ステージでノリまくっている感じがあったし、メイクはするし、派手だし。こういう静かなプライベートの一瞬というのは、なかなか撮れないので、撮ってて、自分なりに手応えを感じてました」と、清志郎さんのステージとプライベートのギャップに魅力を感じたよう。

 鋤田氏は08年2月、日本武道館での清志郎さんの『完全復活祭』も、オフィシャルカメラマンとして撮影しており、箭内氏から「被写体としての清志郎さんの魅力は?」と聞かれたときも、「何か両極端を撮ったような気がする。復活祭とかでは、ジェームス・ブラウンみたいなマントを着て、そういう派手さと、こういうメンフィスの写真は両極端というか。派手なところと、静かで地味な感じの両方撮れたことは幸せだった」と、同じように答えた。

 また、清志郎さんは、当時まだ小さかった長男の竜平君から届いた写真も部屋に貼っていたとのことで、「竜平君も2~3歳ぐらいじゃないですかね。劇場の看板に電飾の文字を入れて撮影したとき“メンフィスから愛を込めて竜平君へ”って文字を入れてました。1ヵ月以上日本を離れているから、よっぽど恋しかったんじゃないかな」と親子のエピソードを明かし、「ホテルの部屋に雑誌や新聞を切り抜いたり、ピンナップとかベタベタ貼ってるんですよね。それを撮らせてくれるんですよ。普通の人だったら、部屋に入ってくることさえ嫌がりますよね」と、すべてをさらけ出してくれた清志郎さんに感心していた。

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清志郎さんのファンも観覧

 その後、集英社の担当者より、同写真集での写真を紹介するコーナーへ。メンフィスのビール・ストリートでの一枚、バーボン・ストリートのライブハウスでの一枚などが紹介され、潰れたビール工場の廃墟の階段で、ギターを持って佇んでいる清志郎さんのモノクロの写真については、鋤田氏も「夕方のいい光が入ってきていた。清志郎さんは衣装も自前なんだけど、決まってますよね」と、お気に入りのようだ。

 スタッフが目を離したすきに、清志郎さんがホテルで開かれていた結婚式に勝手に参加した一枚もあり、担当者から「『日本から来た、有名なR&Bシンガーだ』と名乗って『June Bride』を歌ってました」と、『RCサクセション』最後のアルバムとなった『Baby a Go Go』に収録されているウエディングソングを歌ったことが明かされると、一般客も思わず「オ~ッ」とうなる。

 ニューオーリンズの黒人が住んでいる地区では、「お前ら何しに来たんだ?」という目で見られ、ライフルを持った現地の人から「帰らないと撃つぞ」と言われたというほど危険な撮影だったよう。だが、清志郎さんはそこにも平気で入っていき、「いい天気だね」と会話して、溶け込んでいったという。これには鋤田氏も「僕のほうが怖がりでした。清志郎さんは腹据わってましたよね」と、脱帽していた。

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サイン会の模様

 一般客から「何枚ぐらい撮りましたか?」という質問があり、「何枚ですかね? 数えてないですけど」という鋤田氏に代わり、担当者が「1本36枚のフィルムで500本弱ぐらいですね。当時、35mmのフィルムで、手持ちの一眼レフで、ほとんどストロボも使わず、スナップを撮るように身軽な感じでの撮影でした」と返答。

 ここで終了の時間が迫り、箭内氏が最後に、「鋤田さんは74歳になっても、ミーハーなままだし、いま撮る写真が一番かっこいい。清志郎さんもそうだけど、こういう年上の人がいると、勇気が湧いてきますよね」と、称賛。鋤田氏も「去年、『AKB48』を撮りましたからね。是枝(裕和)さんが演出で、『桜の木になろう』のPVで、僕に指名がきたので回しました」と続け、なぜか人気アイドルグループの話題へ。さらに鋤田氏が「名前を覚えるのに大変でした。前田(敦子)、大島(優子)とか3人ぐらいはわかります」と笑わせるなど、終始明るい雰囲気のままトークショーはお開きに。その後、同写真集を購入した方へのサイン会が行われた。

 歴代のミュージシャンから清志郎さん、『AKB48』まで幅広く撮影する鋤田氏による『鋤田正義展 サウンドアンドヴィジョン』は、東京都写真美術館で、8月11日から9月30日まで開催。『鋤田正義写真展 きれい』は、東京・渋谷パルコミュージアムで8月25日から9月17日まで開催される。

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